忍者ブログ
日常徒然
2026/06
< 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 >
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

『カゼノウワサ』”亡霊”編のプロット的な小説がフォルダに入ってました。
読みたい方下のリンクからどうぞ。
長門のヴィジュアルを決めるのが面倒で漫画にこの辺のシーンは書かなかった。

『陰』未読の方はネタバレに注意です。

 バラバラ事件の犯人に殴られた痕も痛々しい青木は、逆に木下を見舞うように声を掛けた。
「しかし圀、なんで、後ろなんて向いてたんだよ?」
「お前が殴られてる音が聞こえたら急に、気分が悪くなった」
「何かあったのか?少し前からぼんやりしてたよな…僕で良ければ、話を聞くくらいは」
 青木が肩に手を掛けるより先に、木下は悲痛な面持ちで青木の袖を掴んでいた。
「――お前にしか話せない」
 青木は、木下のこの顔に弱い。
 今にも泣きそうな子供の顔だ。
 凄く――可愛いと思う。
 木下は考えが後ろ向きだし、愚痴も多いし、臆病だ。
 ただ、基本的には純粋だと思うし、我慢強く負けず嫌いで、青木より根が真面目だ。
 精神的に弱い部分をちゃんと自覚していながら、上手く御せずにもがいているから疲れるのだろう。
 青木が妥協して要領良く折り合いを付けている事に、真っ向から唸るような性格は、嫌いじゃない。
 木下の弱さに同情すると同時に、何とかしてあげたいと思う気持ちがある。
 木場も木下のはっきりしない所と、不必要に怯える所には苛々していた。
 だがそれも木下自体を嫌いというより、元々面倒見の良い性質上どうしても気になるから、というのが本当の所だと思う。
 木場が関口の事を出来れば自分から関わりたくない種類だとよく云うのも、つい面倒を見てしまうから落ち着かないのだろう。
 青木は木場が好きだ。
 でもそれは、自分が凄いと思う人に対等だと認められたいという感情であって、木下に抱く保護欲のようなものとは異なると思う。
 木場は青木に守られる程弱くないし、青木は多分、木場より自分の方が好きだ。
 中禅寺敦子に憧れ以上の気持ちをぶつけられないのも、敦子はそんなに弱くないし、自分を必要としていないからだろう。
 強い人間より、弱くても卑怯でない人間を守ってやる方が好きだ。
 もしかしたら木下を自分より下に見ていて、余裕を見せたいだけかもしれないとも思うが、それだけではない。
 木下は――泣いている時より更に、笑うと可愛いと思う。
 青木にしか見せないと思われるあの顔が見られるのなら、動機が邪かどうかなどどうでもいい。
 自分を頼ってくれる相手、自分が必要とされていると感じられる相手。
 青木はそういう意味も含めて、木下の事が好きなのだった。
「俺もまだ混乱して――上手く、説明できないかもしれない」
 木下は、震えていた。
 青木は木下を抱き締めてやりたい気持ちを抑えて、両肩に手を置いた。
「ゆっくりでいいよ。うちで飲もうか?」
「ああ…」
 何だか自分が生娘を丸め込む詐欺師になった気がして、青木は小さくため息を吐いた。



 木場と青木が他所へ行ってしまうと、課内に目立って観察する対象もなく、長門は退屈していた。
 木場は武骨なようで意外と課内の空気に敏感で、調子の悪い者は悪態混じりに気遣うし、苛々している者には気分転換を促すような冗談を云ったり、相談事を持ち掛けたりと、中々に細やかなのだ。
 青木も木場を慕うだけあって、木場ほどの情はないにしろ、その冷静さで気を引き締めさせ、気配りも行き届いていた。
 相棒を失い残された長門と木下には、そこまでの存在感も、また需要も無い。
 せいぜい冗談のネタにされるぐらいが関の山で、必然的に組まされた相棒同士で地味に事件を消化していた。
「長門さん」
 木下に呼び掛けられ、始末書を書いていた長門は目をやったが、木下は妙に虚ろに前方を睨んでいた。
 長門はまた始末書に目を戻したところで、木下は呟いた。
「俺、娼婦が嫌いなんです」
「…ああ、何か前に荒れてるのを見た気がするなぁ」
「あと、幽霊が嫌いなんです」
「それはよく聞くよ」
「だから――幽霊みたいな娼婦が一番、厭なんですよ」
「私は残念ながら見た事がないから、よくわからんがね。髪が長くて、生気の薄い女ってことかね」 
「まあ、そうです。なんで厭なのかずっと考えないようにしてたんですがね。少し前に…思い出した」
「思い出した?忘れてたのか」
「忘れてたって云うより、覚え違いって云うのか――自分で自分を騙してたみたいで」
「よくある事だ。圀さんは防衛本能が強いから特にそうなりやすいのかもしれないね」
「防衛本能が強いからって――」
「え?今、何て」
「いえ……何でもないです。ホトケ見てすぐ手を合わせるのも、防衛本能なんですかね」
「――そうかも知れない。その人がもう、人で無くなってしまったのを、はっきりさせたいのか」
「はっきりしないと、会話でもしますか」
「会話?……もしかして君さっき」

  防衛本能が強いからって――


  死人と話ができますかね

 長門は聞き返したが、木下は答えなかった。
 長門も深追いはせず、書類に集中する事にした。
 去年、バラバラ事件の少し前に一斉取り締りで木下がとり逃がした娘が、谷中の民家で見つかった。
 木下は現場で、何かに取り憑かれたように押し入れに向かい、彼女を探し当てた。
 皆に臆病者だとからかわれるほど幽霊を怖がる木下だったが、要領が悪い割に勘はさほど悪くない。
 防衛本能の延長か、人の機嫌を察したり、細かい違和感に気付くのが速い。
 一方の長門は、独自の見解を元に慌てず地道に証拠を揃えていくのが得意なので、木下ともまあまあ上手くやっている。
 ただやはり、長門は退屈だった。
 そんな折、大磯であの妙な事件があり、その勇姿に驚きながらも、青木の復帰は朗報であった。
 長門は別の刑事と組む事になり、木下と青木が相棒となった。
 木下は元々騒がしい男ではないが、青木は木下が少し変わったのを察したようで、折を見て長門に声を掛けた。
「長門さん」
「うん」
「僕が居ない間、木下――何かありました?今日は疲れも溜まってるし、具合が悪いんでしょうけど、何だか偶にひどくぼんやりしてるんですよね」
 長門が谷中の事件と、木下の妙な問いが気になった事だけ伝えると、青木は概ね了解したのか、頷いた。
「死人と話――成る程」
 青木は礼を云うと、木下の席へ向かった。
 長門は、青木と木下を退屈しのぎに見守ろうと思ったが、課長の北林と目が合ったので、書類を作成しながら耳を澄ませた。
 どうやら北林は具合の悪い木下を休ませるように云ったらしく、二人はすぐ出て行ってしまった。

 長門はまた、退屈だと思ったが、青木がどうやって木下を懐柔するのかを考える事にした。

(了)
PR
この記事にコメントする
お名前
タイトル
文字色
メールアドレス
URL
コメント
パスワード   Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
わたし?
へのメッセージ?とか勝手に妄想してみたが五十次ね。またシブイ人を。たまーに気になってお邪魔してます。でも、なんか気になるな・・雅琴様の心理と少し掛かってる様な?考え過ぎか。
ナガト 2010/07/09(Fri)19:51:49 編集
Admin    Write    Res
忍者ブログ [PR]